交通事故弁護ブログ@金沢LO

交通事故に関する法律問題を解説します。@石川県金沢市香林坊の若手弁護士

自賠責保険について(概要)

自賠責の対象は人身事故

自賠責保険は、自動車の運行によって他人を傷つけるか死なせた場合(いわゆる人身事故)の人的損害(人損)について支払われる保険です。

車両などの物的損害(物損)は対象になりません。

支払限度額がある

自賠責保険には被害者1名あたりの支払限度額が定められています。

傷害についての支払限度額

傷害については、治療費、休業損害、慰謝料などの項目がありますが、それらを合わせて120万円までとなっています。

後遺障害(後遺症)についての支払限度額

相当期間治療を続けても身体に後遺障害(後遺症)が残る事故の場合は、身体に残った障害の程度に応じた等級により、逸失利益・慰謝料が支払われます。

逸失利益とは、労働能力が減少したことによる将来の収入減少のことです。

後遺障害の慰謝料は、傷害の慰謝料とは別枠です。

これらは、後遺障害等級1~14級に応じ、また、もともとの労働能力に応じ、計算され支払われます。各等級にはそれぞれの限度額があります。

死亡事故の支払限度額

死亡事故においても、逸失利益・慰謝料(本人分・遺族)・葬儀費が支払われますが、3000万円の支払限度額があります。

過失割合について

自賠責保険の特徴は、被害者に過失があっても、過失割合が7割未満にとどまる場合は、認定される損害額が減額されないことです。

一般論で言えば、自分の過失割合分は事故の相手方の責任ではないので相手方や相手方加入の保険会社に支払を求めることができませんが、自賠責保険は被害者保護のため、特別にこのようになっています。

請求、等級認定の流れ

自賠責保険への請求は、加害者や加害者加入の保険会社が被害者に支払ったお金についてすることが実際には多くなっていますが、被害者が直接行うこともできます。

請求があると、自賠責損害調査事務所に書類が送られ、調査が行われます。

後遺障害等級についても、調査事務所において、提出された資料(医師作成の診断書、画像、カルテ、通院記録、意見書等)に基づいて、認定判断が行われます。

この際に、診断書の記載、入通院経過、画像がどのようになっているかが非常に大きなポイントです。

異議申立て

調査事務所の調査結果に対しては、異議申立てをすることができます。

資料や主張の追加なしに判定が覆ることは少なく、判定を覆すためには相応の根拠が必要であるといえます。

いずれにしても、異議段階では再作成が通常困難な資料類もあります(そもそも時間を巻き戻して入通院過程をやり直すことはできません)ので、最初の調査段階までに、後遺障害の状況を具体的・正確に示す資料が整っているに越したことはありません。

参考(相手方任意保険やその他の制度との関係性)

自賠責保険の支払には限度額があるほか、慰謝料などの金額の基準が裁判基準より低いという問題があるので、自賠責保険への請求だけでは済まないようなケースでは、人損について相手方(加害者)に請求し、多くの場合相手方任意保険会社と交渉をすることになります。その際には、過失割合の問題もクローズアップされることがあります。

また、事故に遭った状況(勤務中、通勤中など)によっては、労災の請求ができる場合もあります。労災では、自賠責保険とは異なった機関が後遺障害等級を認定するので、自賠責の等級とは異なった等級が示されることもありますし、過失割合や自賠責の限度額の問題などとの兼ね合いで、労災給付を積極的に受けたほうがよい場合もあります。

被害者に過失割合がある場合などは、被害者加入の人身傷害補償保険に請求することもあります。

基本的には同じ理由で重複した賠償・給付を受けることはできません(労災の特別支給金など別途受けられるものもあります)。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平

信号のない交差点での横断歩行者対自動車の事故における過失認定

自保ジャーナル1988号(2017年4月27日発行)のうち、今回は、過失割合に関係することを取り上げます。

このブログでは、交通事故関係について幅広く書き、自分自身の知識の定着にも生かしていきたいと思っています。そのため、1記事あたりの深さにはばらつきがあるかもしれませんがご容赦を。

信号のない交差点の横断歩行者に過失が認められるケース、認められないケース

歩行者が交通事故により負傷し、後遺障害が残存したケースにおいて、相手方加入の保険会社に損害の一切の支払いを請求したとき、相手方から歩行者側の過失による過失相殺を主張されることがあります。

今回は、信号のない交差点を歩いて横断していた際、特に右折してきた車両との事故において、裁判例がどのように判断したか、まとめてみます。

横断歩道を横断

自保ジャーナル1988号52頁掲載の東京地裁平成28年9月12日判決においては、過失割合について次のように判示しています(以下、当ブログにおいて裁判例の引用の際には、適宜当事者呼称等を略称化したり、一部削除していますので、ここから再利用されることなく、原典に当たって下さい。)。

Y(運転者)の過失は、横断歩道を通過するにもかかわらず、進路前方を注視せず、横断歩道上の歩行者の有無を全く確認しなかったというもので、その程度は極めて重大である。これに対し、原告は横断歩道上を歩行しており、それでもなお過失相殺を相当とする不注意を認めるべき具体的事実の主張立証はなく、過失相殺は認められない。

この判決では、横断歩道上を歩行している以上、過失なしの推定が働くかのような判示がなされているといえます。

なお、自保ジャーナル1917号88頁掲載の東京地裁平成25年12月18日判決も、横断歩道歩行中の事案です。このケースでは


 Yは,本件事故が信号機の設置されていない本件横断歩道上での事故であったこと,Xが夜間では見えづらい黒っぽい服装であったこと,本件事故現場は非市街地であり,車両や人の交通量が少なく,このような道路状況下では,車両がある程度速度を出して走行してくることも全く予見不可能とまではいえないこと,本件事故が夜間であり,車両の運転者からは昼間に比べて歩行者等の発見しにくい状況であるのに対し,歩行者からは車両の前照灯の明かりによりある程度遠くからでも車両の走行を確認することができる状況にあり,Y車が前照灯をつけていたこと等の事情を考慮すると,Xにも前方不注視等の過失により,少なくとも5%の過失相殺がされるべきであると主張する。
 しかし,本件交差点にはY車の右折進行方向出口に本件横断歩道が設置されていたのであるから,Yは,本件横断歩道を通過する際に本件横断歩道によってその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き,本件横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,歩行者があるときは,本件横断歩道の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない注意義務を負っていたものであり(道路交通法38条1項),それにもかかわらず,Yは,本件交差点を右折進行するに当たり,本件横断歩道上の歩行者の有無に十分な注意を払っていなかったばかりか,本件交差点を時速20~25kmもの速度で漫然と通過しようとしていたものであるから,Yの注意義務違反の程度は著しいものといわざるを得ない。
 そうすると,本件事故が夜間であり,本件事故現場付近が暗く,人通りも少ない場所であって,見通しが必ずしも良好でなかったこと等の事情を考慮しても,過失相殺として,本件横断歩道を横断中のXの過失を問うことは相当ではないというべきである。
 したがって,この点に関するYの主張は,採用の限りでない。

とされ、歩行者に不利になりかねない具体的な事情を踏まえながらも、自動車側の注意義務違反の程度の著しさを指摘し、歩行者の過失を認定していません。

横断歩道ではないところを横断

他方、自保ジャーナル1964号25頁掲載の東京地裁平成27年11月10日判決は、

X(歩行者)は,直線路南側の歩道を▲▲方面から進行して本件交差点で突き当たり路を横断しようとしたところ,Y車が直線路の対向方向から南側車線を歩道にまたがる態様でゆっくりと逆走してきた。窓ガラスは全て黒色のスモークガラスで車内が見えず,合図もなかったため,XはY車がどのように走行するのか全くわからず,Y車を回避すべく突き当たり路に大きく回りこんで横断歩行したところ,Y車が突然突き当たり路に右折進入し,Xに衝突した。

とX側が主張しているケースです。

すなわち、横断歩道ではないところの横断です。

このケースで裁判所は次のように判断しています。

直線路は本件交差点内を中央線が貫通しており,突き当たり路に対して優先道路であること,Y車は直線路の北側車線を△△方面から▲▲方面に向かって進行し,本件交差点を右折するため合図を出して対向車が通過するのを待機し,対向車が左折するのに続いて右折進行する際,直線路南側の歩道を▲▲方面から歩行し突き当たり路を横断歩行してきたXに気付き,ブレーキを踏んだが間に合わずXに衝突したことという事実が認められる。
Xは,Y車が直線路を歩道をまたぐ態様で逆走してきたのでこれを回避するため突き当たり路に入り,突き当たり路を横断したところ突然Y車がぶつかって来たと供述するが,Y車が走行するに当たって障害物となるようなものがあったことは窺われないことに照らすと,Y車があえて反対車線を逆走するという危険な走行をしたとは考え難く,Xの供述はにわかに信用できない。他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
上記事故態様によれば,Yは本件交差点を右折進行するに当たり,前方注視義務を怠った過失がある。他方,Xも本件交差点を横断するに当たり,直線路を右折進行する車両の有無及び動静に注意する義務を怠ったという過失がある。双方の過失の内容,道路状況等を総合考慮すると,Xの過失割合は10%とするのが相当である。

この場合、歩行者に一般的・抽象的な注意義務違反を認めています。

コメント

この判決例は、ごく一例とはいえるでしょうが、参考になるものだといえます。ここから考えられることをまとめてみます。

横断歩道を歩行中の場合は、歩行者に具体的な不注意がみられるか、また、自動車側の注意義務違反の程度はどうかがポイントになろうと思われます。

横断歩道でないところの横断の場合には、具体的事情にもよりますが、抽象的な注意義務違反により過失が認定される可能性が低くないように思われます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平

後遺障害が重篤で、将来介護費が多額になるケース

自保ジャーナル1987号(2017年4月13日発行)のうち、注目したのは、次の2つの裁判例です。

  • 1級1号遷延性意識障害を残す35歳女子の将来介護費を母親67歳を超え今後職業介護人の必要性が高まると日額2万円で認定した(東京地裁平成28年9月6日判決)
  • 1級四肢麻痺を残す47歳男子の将来介護費を職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円で認定した(大阪地裁平成28年8月29日判決)

2つとも、後遺障害1級と重篤なケースであり、将来介護費が請求されています。

親族による介護費用、職業介護人による介護費用

東京地裁の判決では、裁判の口頭弁論終結までを日額1万円とし、口頭弁論終結後は日額2万円の計算で認めています。

この被害者の場合、事故後49年分が認められていますが、単純に2万円 × 365日 × (49年ー事故から口頭弁論終結までの年数) ではなく、2万円 × 365日 × (ライプニッツ係数49年-事故から口頭弁論終結時のライプニッツ係数)となります。ライプニッツ係数49年-事故から口頭弁論終結時のライプニッツ係数は、18.1687 - 4.5で、13.6687でした。ライプニッツ係数は、さしあたって以下を参照して下さい。

ライプニッツ係数 - Wikipedia

こうして、口頭弁論終結後の分について、約1億円の介護費用が認定されました。

なお、この訴訟において、被告は、障害者総合支援法に基づく給付を受けられる分については損害が発生していないと解すべきであると主張したようですが、「同法に基づく給付が今後も確実に継続するかは不明」ということで主張が採用されませんでした。

この被害者については、認定された逸失利益が1090万程度にとどまり、後遺障害慰謝料が3000万円であったなかで、介護費用の占める部分は大きかったといえます。成年後見人・後見監督人費用も認められています。

在宅介護における近親者と職業付添人とで合わせての介護費用を算出

大阪地裁の訴訟では、原告が在宅介護(職業付添人と妻による)で月額約108万円+日額1万円を主張したのに対し、被告は、「職業介護人が常駐している医療機関や施設での療養が相当であり、職業介護に全面的に依存する形態での在宅介護への移行は、社会通念上も、社会経済的にも相当性を欠き、異常」と主張しました。

判決は、職業付添人による介護と親族による介護を並行する在宅介護の必要性・相当性を認めたものの、費用は日額1万8000円を認定しました。

この被害者についても、後遺障害逸失利益は約4438万円、後遺障害慰謝料は2500万円でしたが、将来介護費は約9320万円となり、最も大きい項目となりました。

なお、原告が主張した「自宅購入費」は斥けられています。

コメント

両方の訴訟において、訴訟における将来介護費の請求・認定にあたっては、具体的な介護態勢やその必要性・相当性が問われました。

訴訟代理人の弁護士は、症状の重篤性だけではなく、親族の状況や介護サービスをよく調査しなければなりませんし、場合によっては、将来介護の態勢整備に関与していく必要もあるのではないかと思われます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平

腰痛で自賠責14級認定がなされたが訴訟で後遺障害逸失利益が否定されたケース

自賠責の等級が訴訟でそのまま通用しないケースがあることは、以前書きました。

jiko-blog.yybengo.com

自保ジャーナル1986号61頁に、腰背部痛で自賠責14級認定がされているが、訴訟では後遺障害が認められなかった事案が掲載されていますので、ポイントを簡単に紹介します。

 

自賠責14級認定がされているが、訴訟では後遺障害が認められなかった事案

この事案では、某年1月17日に発生した事故による後遺障害の有無が争点になっているのですが、被害者(原告)は前年12月30日にも別の追突事故に遭っています。重複する休業損害申請をしたようです。

判決は、本件事故当日の原告の行動、翌日の行動、病院での診察結果、接触時の衝撃の程度、原告の相手方弁護士への言動(期限を切って治療を終了させる旨述べるとともに本件事故について示談を早急に進めるよう求め、他方、示談手続が思うように進展しないとさらにリハビリを再開して続けることを述べるなどの言動)などから、「本人の愁訴それ自体信用性に欠ける」と判断しています。

そして、本件事故による受傷の程度はごく軽微なものであった疑いが濃厚であり、後遺障害とされる疼痛も、その基礎となる原告の愁訴それ自体信用性に欠けるうえ、仮に疼痛があるとしても専ら前件事故によるもの、あるいは職業運転手の持病によるもののの可能性もある、と判断しています。

通院慰謝料も1日分のみの認定です。

 

コメント

場合によっては、事故直後の言動や医師、弁護士に対する言動がクローズアップされることもあるということでしょう。

被害者の立場の方は、加害者などへの怒りを抱える状況にあるのですが、それでも場面ごとに丁寧に・冷静に行動をするよう努めるほうがプラスになるのかもしれません。詐病などではない一般的なケースにおいても十分教訓になる話です。

 

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平

少額の交通事故訴訟が急増しているのはなぜか

簡易裁判所で急増する交通事故訴訟

以前、読売新聞が、「交通事故訴訟 10年で5倍」「弁護士保険普及で」「『弁護士、報酬が目的』」「支払い増、損保悲鳴」という記事を掲載したことがあります(2014年10月25日朝刊)。

九州の弁護士の方がその記事に言及しておられるのでリンクします。

jiko110.jp

簡易裁判所は、基本的に請求額140万円以下の訴訟を取り扱うのですが、そこに訴え出る訴訟が急増しているということです。

また、以前は、そのような場合には弁護士をつけない者同士の争いも多かったものが、最近は多くの場合で弁護士を代理人に立てているということです。

この記事は保険会社の言い分中心に構成されていますので、上記のリンクでの弁護士の意見と読み合わせるとちょうど良さそうに思います。

 

物損のみ案件の現状と私の考え

物損のみの案件は訴えるメリットがあまりないことが多い

物損のみの案件は、人損(ケガや後遺障害)が関係する案件に比べると、訴えるメリットは少ないことが多いです。

それは、物損のみの案件では慰謝料が発生しないことと関係します。

過失割合や車両価値の問題が争われることが多いですが、慰謝料や後遺障害逸失利益のように保険会社基準より高い裁判基準があるわけではなく、結局双方の車両損害をどう分け合って補填するかというだけの話になります。

訴訟になれば、時間がかかる場合も多いです。

ですから、あまりメリットがありません。

特に、弁護士費用特約が普及するまでは、メリットが少ないのに弁護士に依頼すると弁護士費用を負担しなければならなかったわけです。要するに、数万・数十万のお金を巡って争っている事故当事者が弁護士にお金を支払うことは不経済だったわけです。弁護士から見ても、費用倒れになる可能性が大の場合は引き受けにくい状況でした。

この点が大きなネックになって、被害者は、提案された解決内容に不満があっても、しぶしぶ受諾していたものとみられます。

それでも訴訟で解決すべき場合はあるか

新聞記事によると、弁護士費用特約ができて、物損のみのケースで弁護士に依頼するケースが急増したことを保険会社は問題視しているようです。

上述したように、物損のみの事故は訴訟にメリットが少ないため、これまでなら保険会社からの説得で「合理的な泣き寝入り」で済ませることができていたものが、弁護士費用特約の導入により、そうはいかないことが増えてきたという現実があります。

この「合理的な泣き寝入り」を是と捉えるか、否と捉えるかがポイントなのだろうと思います。

上述したようにメリットが少ない中でも、納得のいかない案を呑むデメリットを回避するための訴訟というのは、あってもよいのではないかと思います。

雑感

以前、弁護士費用特約を利用した受任についての説明書に、「タイムチャージ方式は物損の少額案件を受任しやすくするために設定されている」と書かれていたので、素直に従ってタイムチャージ方式で受任したことがあったのですが、そこまで受任しやすいとは感じませんでした。弁護士であっても保険会社とのやり取りが負担になることがあります。

そんな感じで、タイムチャージ方式は使いやすいとも言えないので、現在(今日時点)、タイムチャージ方式で受任している案件はなく、今後どうしようかと思案しています。しかし、基本的には、被害者が弁護士特約を使って訴訟をしようと考えているときに、弁護士までもそれを押しとどめるのはおかしいのではないかとも思いますので、方式はともかく受任の努力はしたいところです。

なお、保険会社におかれては、”不毛な”訴訟を少なくするために、ドライブレコーダーの普及をさらに図るとか、安全運転評価型自動車保険http://www.sonysonpo.co.jp/auto/cashback/など)の開発普及を進めるなどの取組を進めてほしいと思っています。

合図(ウインカー)から進路変更までが短すぎると・・・

勉強のため、『自保ジャーナル』を購読しています。交通事故の判決例(判例)を中心に掲載している雑誌です。

1985号(2017年3月9日号)が届きました。

普段思っていることに関連して、気になった判決例がありました。

大阪地裁平成28年7月15日判決。「合図から進路変更まで1秒に満たないことから、後続原告自動二輪車には回避不能として過失を否認した」という判決例です。

このケース、時速10~20キロメートルで進んでいた普通貨物車が側道から本線に進入するにあたって、本線の自動二輪車(時速約40キロメートル)に衝突したのですが、普通貨物車が合図から右ハンドルを切るまでが約0.36~0.72秒であり、右ハンドルを切ってから衝突までが約1.15秒との認定です。

方向指示器による合図について、原告の主張は、「合図なし(仮に合図があったとしても進路変更直前であり対処不可能)」というもの、被告の主張は、「合図あり」というものでした。

どうやって、合図の事実や秒数を認定したのかというと、事故直後の実況見分に基づいて作成されたという実況見分調書(実況見分書)記載の内容からだということです。

事故態様が争われるケースでは、実況見分調書が重視されることがよくわかります。

ドライブレコーダーなどのさらなる普及と証拠利用が進めばまた変わってくるのでしょうが、現状はアナログ、叙述的な根拠での事実認定が主流です。

 

そして、私自身が車社会である石川県などで運転していて思うことですが…。

実際は、進路変更をし始めてから方向指示器の合図を出す車がかなり多いです。

この場合、進路を変えたいよという合図は、実質的には、車線をまたぐことで行われています…。体を使って、割って入るような感じです。

そうした「車線またぎ先行型」の進路変更がなされて事故が起きた場合、どれだけの割合で、進路変更後に合図を出したことが実況見分調書の内容になっているのかな、と思います。それほど、進路変更動作後のウインカーが多いように感じます。

事故の相手方がそういう運転をしていたということを、相手方否認の場合に立証するのは大変だと思いますので、ドライブレコーダーをつけたほうがいいんでしょうねぇ…。

交通事故訴訟では「書証」が重要です

まずもって、民事訴訟では書証が重要

民事訴訟では書証が重要です。

書証とは、証拠となる書類のことです。

たとえば、契約の内容が争われている訴訟では、お互いの署名や押印のある契約書があればそれが基本的な合意内容だと考えられやすいです。契約書があるのに、それに反した合意があるということを主張したい場合には、立証のためにかなりの努力が必要です。

契約書のような基本となる書面がないような類型の訴訟でも、当事者の意思を示すとか、当時の状況を示すような書面は重要視されます。

交通事故で重要な書証は?

交通事故、特に人損事故では、様々な書面が作成されます。

交通事故証明書、警察官の実況見分調書、医師の診療録(カルテ)、診断書、休業証明書、後遺障害診断書、後遺障害等級認定票などです。

交通事故に際して作成されるものではないですが、従来の収入を証明する資料もとても重要です。

こうした基本的な書類が揃っており、きっちりとした内容になっているかどうかが非常に重要であり、事件の帰趨に関わるといえます。

通常はあるはずの書類がない、提出されない、提出するのを渋る、疑わしい内容になっている、というようなことがある場合には、その書証に関する主張が認められづらくなりますし、その当事者の主張全般の信用性にも疑問符がつくことになりかねません。

着実に準備しよう

これらの重要書類は、訴訟を起こしてから探していては遅いものです。また、訴訟を起こす段階で、ないことに気づいても、一から新しく作ることができないようなものです。

そうした準備不足や想定不足は、訴訟になると、大きなウィークポイント(弱点)になります。相手方が攻めやすい点になりますし、裁判所にも着目されてしまいます。

そのため、重要書類がちゃんと作られているか、また、その内容が納得行くものになっているかどうかについては、訴訟を起こすずっと前の段階から、着実に準備すべきなのです。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平