交通事故弁護ブログ@金沢LO

交通事故に関する法律問題を解説します。@石川県金沢市香林坊の若手弁護士

信号のない交差点での横断歩行者対自動車の事故における過失認定

自保ジャーナル1988号(2017年4月27日発行)のうち、今回は、過失割合に関係することを取り上げます。

このブログでは、交通事故関係について幅広く書き、自分自身の知識の定着にも生かしていきたいと思っています。そのため、1記事あたりの深さにはばらつきがあるかもしれませんがご容赦を。

信号のない交差点の横断歩行者に過失が認められるケース、認められないケース

歩行者が交通事故により負傷し、後遺障害が残存したケースにおいて、相手方加入の保険会社に損害の一切の支払いを請求したとき、相手方から歩行者側の過失による過失相殺を主張されることがあります。

今回は、信号のない交差点を歩いて横断していた際、特に右折してきた車両との事故において、裁判例がどのように判断したか、まとめてみます。

横断歩道を横断

自保ジャーナル1988号52頁掲載の東京地裁平成28年9月12日判決においては、過失割合について次のように判示しています(以下、当ブログにおいて裁判例の引用の際には、適宜当事者呼称等を略称化したり、一部削除していますので、ここから再利用されることなく、原典に当たって下さい。)。

Y(運転者)の過失は、横断歩道を通過するにもかかわらず、進路前方を注視せず、横断歩道上の歩行者の有無を全く確認しなかったというもので、その程度は極めて重大である。これに対し、原告は横断歩道上を歩行しており、それでもなお過失相殺を相当とする不注意を認めるべき具体的事実の主張立証はなく、過失相殺は認められない。

この判決では、横断歩道上を歩行している以上、過失なしの推定が働くかのような判示がなされているといえます。

なお、自保ジャーナル1917号88頁掲載の東京地裁平成25年12月18日判決も、横断歩道歩行中の事案です。このケースでは


 Yは,本件事故が信号機の設置されていない本件横断歩道上での事故であったこと,Xが夜間では見えづらい黒っぽい服装であったこと,本件事故現場は非市街地であり,車両や人の交通量が少なく,このような道路状況下では,車両がある程度速度を出して走行してくることも全く予見不可能とまではいえないこと,本件事故が夜間であり,車両の運転者からは昼間に比べて歩行者等の発見しにくい状況であるのに対し,歩行者からは車両の前照灯の明かりによりある程度遠くからでも車両の走行を確認することができる状況にあり,Y車が前照灯をつけていたこと等の事情を考慮すると,Xにも前方不注視等の過失により,少なくとも5%の過失相殺がされるべきであると主張する。
 しかし,本件交差点にはY車の右折進行方向出口に本件横断歩道が設置されていたのであるから,Yは,本件横断歩道を通過する際に本件横断歩道によってその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き,本件横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,歩行者があるときは,本件横断歩道の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない注意義務を負っていたものであり(道路交通法38条1項),それにもかかわらず,Yは,本件交差点を右折進行するに当たり,本件横断歩道上の歩行者の有無に十分な注意を払っていなかったばかりか,本件交差点を時速20~25kmもの速度で漫然と通過しようとしていたものであるから,Yの注意義務違反の程度は著しいものといわざるを得ない。
 そうすると,本件事故が夜間であり,本件事故現場付近が暗く,人通りも少ない場所であって,見通しが必ずしも良好でなかったこと等の事情を考慮しても,過失相殺として,本件横断歩道を横断中のXの過失を問うことは相当ではないというべきである。
 したがって,この点に関するYの主張は,採用の限りでない。

とされ、歩行者に不利になりかねない具体的な事情を踏まえながらも、自動車側の注意義務違反の程度の著しさを指摘し、歩行者の過失を認定していません。

横断歩道ではないところを横断

他方、自保ジャーナル1964号25頁掲載の東京地裁平成27年11月10日判決は、

X(歩行者)は,直線路南側の歩道を▲▲方面から進行して本件交差点で突き当たり路を横断しようとしたところ,Y車が直線路の対向方向から南側車線を歩道にまたがる態様でゆっくりと逆走してきた。窓ガラスは全て黒色のスモークガラスで車内が見えず,合図もなかったため,XはY車がどのように走行するのか全くわからず,Y車を回避すべく突き当たり路に大きく回りこんで横断歩行したところ,Y車が突然突き当たり路に右折進入し,Xに衝突した。

とX側が主張しているケースです。

すなわち、横断歩道ではないところの横断です。

このケースで裁判所は次のように判断しています。

直線路は本件交差点内を中央線が貫通しており,突き当たり路に対して優先道路であること,Y車は直線路の北側車線を△△方面から▲▲方面に向かって進行し,本件交差点を右折するため合図を出して対向車が通過するのを待機し,対向車が左折するのに続いて右折進行する際,直線路南側の歩道を▲▲方面から歩行し突き当たり路を横断歩行してきたXに気付き,ブレーキを踏んだが間に合わずXに衝突したことという事実が認められる。
Xは,Y車が直線路を歩道をまたぐ態様で逆走してきたのでこれを回避するため突き当たり路に入り,突き当たり路を横断したところ突然Y車がぶつかって来たと供述するが,Y車が走行するに当たって障害物となるようなものがあったことは窺われないことに照らすと,Y車があえて反対車線を逆走するという危険な走行をしたとは考え難く,Xの供述はにわかに信用できない。他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
上記事故態様によれば,Yは本件交差点を右折進行するに当たり,前方注視義務を怠った過失がある。他方,Xも本件交差点を横断するに当たり,直線路を右折進行する車両の有無及び動静に注意する義務を怠ったという過失がある。双方の過失の内容,道路状況等を総合考慮すると,Xの過失割合は10%とするのが相当である。

この場合、歩行者に一般的・抽象的な注意義務違反を認めています。

コメント

この判決例は、ごく一例とはいえるでしょうが、参考になるものだといえます。ここから考えられることをまとめてみます。

横断歩道を歩行中の場合は、歩行者に具体的な不注意がみられるか、また、自動車側の注意義務違反の程度はどうかがポイントになろうと思われます。

横断歩道でないところの横断の場合には、具体的事情にもよりますが、抽象的な注意義務違反により過失が認定される可能性が低くないように思われます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平