弁護士費用特約を利用して弁護士を依頼する場合の契約主体は誰か?
近年、主に交通事故事件に関して利用が活発化している弁護士費用特約ですが、基本的な事柄について整理してみます。
まず、大原則。
Q=「誰が弁護士と契約するのでしょうか?」
A=「損害賠償請求権者(被害者)ご自身です。」
被害者と保険契約者が異なる場合でも、弁護士費用特約によって弁護士費用が補償されることが多々ありますが、その場合でも、弁護士と契約するのは損害賠償請求権者(被害者)となります。
保険会社は費用を実質的に負担する立場ですが、弁護士と契約するわけではありません。
「保険会社支払基準」とは何か?
弁護士保険に関しての業務を行う日弁連リーガル・アクセス・センター(日弁連LAC)は、多くの保険会社と協定を結んでいます(保険会社名は後記します)。
日弁連LACは、「弁護士保険における弁護士費用の保険金支払基準」を定めています。その中で、「保険金支払いに関しては、最低でもこの基準を尊重した保険金支払を期待するものである」、「この基準は弁護士報酬そのものを算定するための基準というわけではなく、あくまでも保険金支払いに関して問題がない範囲の基準を示しているにすぎないものである」と述べています。
要するに、日弁連LACの「保険会社支払基準」に基づけば、多くの保険会社が円滑に弁護士費用を支払う、ということになっているわけです。
2016年10月現在の、協定保険会社・共済は、以下のとおりです(これとは別に、弁護士費用特約の制度は導入しているけれども日弁連と協定は結んでいない、という保険会社もあります)。
- あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
- au損害保険株式会社
- 共栄火災海上保険株式会社
- セゾン自動車火災保険株式会社
- 全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)
- 全国自動車共済協同組合連合会
- 全国労働者共済生活協同組合連合会(全労済)
- ソニー損害保険株式会社
- 損害保険ジャパン日本興亜株式会社
- そんぽ24損害保険株式会社
- Chubb損害保険株式会社(チャブ保険)
- チューリッヒ保険会社
- 富士火災海上保険株式会社
- プリベント少額短期保険株式会社
- 三井住友海上火災保険株式会社
- 三井ダイレクト損害保険株式会社
着手金・報酬金方式と時間制報酬(タイムチャージ)方式
弁護士費用特約を利用して弁護士に事件処理を依頼する場合の報酬方式として日弁連LACの「保険会社支払基準」は、「着手金・報酬金方式」、「時間制報酬(タイムチャージ)方式」、「手数料方式」の3つを挙げています。
このなかで、最も多く用いられているのは、「着手金・報酬金方式」だと思われます。また、「時間制報酬(タイムチャージ)方式」や「手数料方式」が用いられることもしばしばあります。
ここでは、「着手金・報酬金方式」と「時間制報酬(タイムチャージ)方式」について説明します。
着手金・報酬金方式
着手金とは、弁護士が依頼者の依頼に応じて事件処理に着手する段階で受けるべき委任事務処理の対価です。事務処理の成功不成功にかかわらず受任時にいただくものです。
報酬金とは、基本的には、委任事務によって得られた利益などに基づいて算定されるものです。これは、着手金とは別にかかってくるものです。
要するに、着手したタイミングと結果が出たタイミングで、弁護士費用が生じます。
これは、弁護士費用特約での受任に限らず、多くの場合に弁護士がとる方式です。
時間制報酬(タイム・チャージ方式)
時間あたりの弁護士費用の単価を設定するやり方です。
特に、大きいとはいえない金額をめぐる争いにおいては、「着手金・報酬金方式」では、報酬金が小さくなりすぎるなどの事情から、弁護士の受任が得にくいことがあります。そこで、弁護士保険制度では、少額事件についても弁護士が積極的に受任するよう、時間制報酬(タイム・チャージ方式)を認めています。
日弁連LACは、時間制報酬(タイム・チャージ方式)をとる場合、弁護士が保険会社に対し毎月1回の割合で執務報告をするよう、各弁護士に求めています。
弁護士費用特約を利用して弁護士に相談・依頼を開始したい場合は?
保険会社・日弁連LACを介して紹介してもらう方法
弁護士費用特約を利用したいけれども相談できる弁護士を知らない、という方には、上記に挙げた日弁連LACと協定を結んでいる保険会社であれば、日弁連LAC・各弁護士会を経由して、地元の弁護士を紹介することができます。
この紹介は、弁護士会にある名簿順など、ランダムな方法によります。
相談する弁護士・依頼する弁護士を自分で決める方法(推奨)
相談したい弁護士・依頼したい弁護士がいるときには、損害賠償請求権者(被害者)がご自分で指名して、弁護士に相談・依頼をすることもできます。
弁護士費用特約は、弁護士を選ぶことができるメリットのある仕組みになっています。
そのメリットを活かし、弁護士費用特約を利用した依頼者の案件を積極的に受任し、依頼者に明確な説明をしている法律事務所・弁護士をお探しになるほうが、納得の行く解決につながっていくのではないかと思います。
金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平